(更新日: 2025年10月3日)

竹製品のDIYやリメイクに挑戦したいけれど、竹の塗装方法が分からず困っていませんか。
竹に色を塗る際、木材と同じ感覚で塗装してしまうと、塗料がうまく乗らなかったり、すぐに剥がれてしまったりと、失敗の原因になります。
特に、竹特有の油分を取り除く油抜きという下準備は、塗装の仕上がりを左右する非常に重要な工程です。
この記事では、初心者の方でもプロ並みの仕上がりを目指せる、竹の塗装方法の全てを徹底的に解説します。
青竹や古い竹といった素材ごとの下準備の違いから、塗装スプレーや絵の具、ニス、オイルステインなど、目的に合わせた塗料の選び方まで、あなたが知りたい情報を網羅しました。
さらに、IKEAの竹製品をおしゃれにリメイクするアイデアや、多くの人が憧れる、使い込まれたような風合いの竹を飴色にする方法も具体的に紹介します。
塗装後のメンテナンスとして、長持ちさせるために油塗るべきかといった疑問にもお答えします。
この完全ガイドを読めば、もう竹の塗装で迷うことはありません。
記事の要約とポイント
- 塗装の仕上がりを左右する最重要工程、油抜きの正しい手順が分かる
- 塗装スプレーから絵の具まで、ニスやオイルステインなど最適な塗料が選べる
- 古い竹や青竹もOK!失敗しない具体的な竹の塗装方法の全工程を解説
- IKEA製品にも応用可能!憧れの竹を飴色にする方法と仕上げのコツが分かる
失敗しない竹の塗装方法|まずは重要な3つの下準備から
竹の小物や家具に自分で色を塗ってみたい、そう思ったはいいものの、いざやってみると塗料がうまく乗らずに弾かれてしまったり、まだら模様になってしまったり。
「どうしてこんなに難しいんだ…」と、工房の片隅で頭を抱えた経験はありませんか。
私も若い頃、親方に「竹をなめるな!」と一喝されたことがあります。
カラカラと乾いた竹の表面は、一見すると素直そうに見えるのですが、実はなかなかの気難し屋。
しかし、ご安心ください。
竹の塗装がうまくいかないのには、はっきりとした理由があります。
そして、その理由さえ理解してしまえば、驚くほど美しい仕上がりを手に入れることができるのです。
この記事では、私が30年以上の歳月をかけて竹と向き合い、数え切れないほどの失敗の末にたどり着いた、竹の塗装方法の神髄を余すところなくお伝えします。
重要なのは、塗装そのものではなく、その前の「下準備」。
この最初のステップこそが、あなたの作品の出来栄えを9割方決定づけると言っても過言ではありません。
竹塗装は下準備が9割!重要3工程
油抜き
下準備
塗料
青竹
古い竹
竹の塗装で失敗しないためには、塗装前の3つの下準備が重要です。塗料の密着度を高める油抜き、表面を整えるやすりがけ、そしてニスやオイルステイン、絵の具といった塗料の選び方を解説。青竹や古い竹など、素材に合わせた最適な下準備の方法が分かります。
- 最重要!塗装前の油抜きで塗料の密着度が変わる
- 表面を滑らかにするサンディング(やすりがけ)のコツ
- 青竹と古い竹、それぞれの下準備の違いとは?
- 竹に合う塗料の選び方|ニス、オイルステイン、絵の具の特徴
- 塗装に必要な道具リスト|刷毛や塗装スプレーも忘れずに
最重要!塗装前の油抜きで塗料の密着度が変わる
さて、竹の塗装で最も重要かつ、多くの人が見過ごしがちな工程、それが油抜きです。
「油を抜く?竹に油なんてあるのか?」と疑問に思うかもしれませんね。
ええ、あるんです。
竹は自身の表面を保護するために、天然の蝋(ろう)成分や油分をその身にまとっています。
これが、我々が塗料を塗ろうとすると、つるり、と弾いてしまう厄介なバリアの正体なのです。
この油分を残したまま塗装を強行すれば、どんなに高級な塗料を使っても、まるで水をかけたワックスペーパーのように、塗料は表面で玉になってしまいます。
仮に無理やり塗り広げられたとしても、乾燥後に爪で軽く引っ掻くだけで、パリパリとフィルムのように剥がれ落ちてしまうでしょう。
私がまだ駆け出しだった20代の頃、大きな失敗をやらかしました。
京都の料亭に納める竹製の照明器具の試作品でした。
納期が迫っていて焦っていた私は、親方の「油抜きはしっかりやれよ」という言葉を「まあ、大丈夫だろう」と聞き流し、サンディングだけして、当時としては高価だった漆系の塗料を塗ってしまったのです。
仕上がりは一見、完璧に見えました。
艶やかで、深みのある黒。
「これなら文句ないだろう」と得意げに親方に見せた瞬間、親方は無言でその照明を手に取り、自身の爪でそっと表面をこすりました。
するとどうでしょう。
するするっと、まるで黒いセロハンテープでも剥がすかのように、塗膜がめくれ上がってしまったのです。
あの時の、血の気が引く感覚と、工房に響き渡った親方の雷のような怒声は、今でも忘れられません。
「基本を疎かにする奴に、もんを作る資格はねぇ!」
この失敗から、私は油抜きの重要性を骨の髄まで理解しました。
では、具体的にどうやって油抜きを行うのか。
伝統的な方法としては、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)の水溶液に竹を浸け置く「湿式法」や、火で炙って油分を表面に浮き上がらせて拭き取る「乾式法」があります。
乾式法は特に青竹の色を美しい淡黄色に変える効果もあり、技術と経験が求められます。
しかし、ご家庭で安全に行うなら、熱湯を使った方法が最も手軽でおすすめです。
また、竹を加熱するには以下のようなガスバーナーがお勧めで、特にイワタニのカセットガスバーナーは、コンビニ・スーパーでもガス缶が買えるのでお勧めです。
【家庭でできる熱湯を使った油抜きの手順】
- 準備: 大きな鍋や、耐熱性の容器(DIY用の深いトレイなど)、そして大量の熱湯を用意します。竹が完全にお湯に浸かるサイズが理想です。
- 浸漬: 竹を容器に入れ、沸騰したお湯をゆっくりと注ぎます。竹が浮き上がってくる場合は、重し(石や水の入ったペットボトルなど)をして、全体がお湯に浸かるようにしてください。
- 放置: そのままお湯が冷めるまで、数時間放置します。お湯がうっすらと黄色く濁り、表面に油が浮いてくれば、油抜きがうまくいっている証拠です。
- 洗浄: 竹を取り出し、タワシやブラシを使って表面をゴシゴシとこすり洗いします。ここで浮き出た油分や汚れをしっかりと洗い流しましょう。
- 乾燥: 最後に、風通しの良い日陰で竹を完全に乾燥させます。最低でも2~3日、できれば1週間ほど時間をかけて、内部の水分までしっかり抜くのが理想です。直射日光は割れの原因になるので避けてください。
このひと手間をかけるだけで、塗料は竹の表面にぐっと食いつき、まるで竹自身がその色になったかのように一体化します。
仕上がりの美しさと耐久性が、面白いほど格段に向上するのです。
どうか、私の若い頃の失敗を反面教師にしてください。
塗装は、油抜きから始まります。
表面を滑らかにするサンディング(やすりがけ)のコツ
油抜きと乾燥が終わった竹は、いわばすっぴんの状態です。
ここからさらに美しい化粧、つまり塗装を施すために、肌理(きめ)を整える作業、サンディング(やすりがけ)に移りましょう。
「ただ紙やすりでこすればいいんだろう?」と思うなかれ。
このサンディングにも、仕上がりを天と地ほどに分ける、細やかなコツが存在するのです。
竹の表面は、目には見えない微細な凹凸や、乾燥過程で逆立った繊維のささくれがあります。
これらを滑らかに整え、さらに塗料の食いつきを良くするための微細な傷(足付けと呼びます)を付けるのが、サンディングの目的です。
まず重要なのが、紙やすりの「番手(ばんて)」選び。
番手は数字で表され、数字が小さいほど目が粗く、大きいほど目が細かくなります。
いきなり目の細かいやすりで磨いても、効率が悪いばかりか、表面の大きな傷や凹凸を取り除くことはできません。
逆に、粗すぎるやすりから始めると、深い傷がついてしまい、それを消すのに余計な手間がかかってしまいます。
【推奨サンディング番手のステップ】
- 下地調整(#180~#240): まずは中目の180番から240番あたりで、全体の凹凸やささくれ、残っている薄皮などを取り除きます。竹の繊維は一方向に走っていますから、その繊維の目に沿って、優しく、しかし確実にやすりをかけていくのがポイントです。節の部分は特に硬く、段差があるので、ここは少し力を入れて丁寧に磨き上げてください。
- 平滑化(#320~#400): 次に、320番から400番の細目のやすりで、下地調整でついたやすり傷を消し、表面をさらに滑らかにしていきます。この段階で、手で触れた時の感触が「ツルツル」に変わってくるはずです。このひと手間が、塗装後の艶やかな光沢を生み出すのです。
- 仕上げ(#600以上・任意): より完璧な鏡面仕上げや、オイルステインのように木目を活かす塗装をする場合は、最後に600番以上の極細目のやすりで軽く表面を撫でるように磨くと、さらに美しい仕上がりになります。
サンディングは、電動サンダーを使えば効率的ですが、竹のような曲面や細部が多い素材には、やはり手作業が欠かせません。
手に馴染む大きさの木片などに紙やすりを巻き付けて使う「当て木」をすると、均一に力がかかり、磨きムラを防ぐことができます。
特に竹の節の周りは、当て木を使いながら慎重に作業を進めましょう。
ここで焦って雑に磨くと、節だけが平らになってしまったり、逆に周りだけが削れすぎてしまったりと、不自然な仕上がりになってしまいます。
竹が持つ本来の美しいフォルムを、指先で感じながら磨き上げていく。
それはまるで、素材との対話のようです。
サンディングが終わったら、表面についた削りカスをきれいに取り除くことを忘れないでください。
乾いた布で拭き取るだけでも良いですが、より完璧を期すなら、「タッククロス」と呼ばれる粘着性のある布で拭うと、微細な粉塵まで完全に除去できます。
あるいは、固く絞った濡れ雑巾で拭き、再度しっかりと乾燥させるのも有効な方法です。
この一手間を惜しむと、せっかくの塗装にホコリが混じり、表面がザラザラとした残念な結果になってしまいますから。
さあ、これで竹は、どんな塗料でも受け入れる準備が整いました。
青竹と古い竹、それぞれの下準備の違いとは?
さて、一口に竹と言っても、その状態は様々です。
切り出したばかりのみずみずしい青竹と、納屋の隅で何年も眠っていたような古い竹とでは、当然ながら下準備の方法も変えなければなりません。
素材の状態を見極め、それに合わせた最適なアプローチを選ぶこと。
これもまた、熟練の職人には欠かせない技術の一つなのです。
まず、青竹。
その名の通り、生命力あふれる緑色をしたこの竹は、内部に多くの水分と油分を含んでいます。
この状態で塗装を試みても、塗料は全く定着しません。
それどころか、内部の水分が乾燥する過程で蒸発し、塗膜を内側から押し上げて、無残な水ぶくれのような状態を引き起こしてしまいます。
ですから、青竹を塗装する場合は、前述した「油抜き」と、それに続く「徹底的な乾燥」が何よりも重要になります。
伝統的な技法では、火で炙って強制的に油分と水分を抜き、同時に表面を硬化させる「火抜き」という作業を行いますが、これは非常に高度な技術を要します。
ご家庭で行う場合は、やはり熱湯による油抜きの後、焦らずじっくりと時間をかけて乾燥させるのが最善の策でしょう。
青竹の場合、乾燥期間は最低でも1ヶ月、できれば半年から1年ほど見ておきたいところです。
「そんなに待てない!」という声が聞こえてきそうですが、この時間をかけることで、竹は寸法が安定し、塗装後も割れや変形が起こりにくくなるのです。
つまり、青竹の塗装は、素材を落ち着かせることから始まる、長期的なプロジェクトと考えるべきなのです。
一方、古い竹はどうでしょうか。
こちらは水分や油分はすっかり抜けきっていますが、代わりに長年の間に蓄積したホコリやカビ、そして表面の酸化による劣化といった問題を抱えています。
油抜きは不要な場合が多いですが、その代わりに入念な「クリーニング」が必要不可欠です。
まずはタワシやブラシを使い、水洗いして表面の汚れを徹底的に落とします。
もし黒カビなどが発生している場合は、市販のカビ取り剤や、酸素系漂白剤を薄めた液を使い、慎重に取り除いてください。
ただし、薬品を使った後は、成分が残らないように、これまた入念に水で洗い流すことが肝心です。
薬品が残っていると、塗料の変色や劣化の原因になりかねません。
洗浄後は、青竹同様、完全に乾燥させます。
古い竹は乾燥しているとはいえ、洗浄で水分を含んでいますから、油断は禁物です。
下準備における青竹と古い竹の主な違いを、テーブルにまとめてみましょう。
特に油抜き後の乾燥工程では、以下のようにドライヤーの親玉のようなヒーティングガンがあるとお勧めです。
項目 | 青竹 | 古い竹 |
主な課題 | 多量の水分と油分 | 汚れ、カビ、表面の劣化 |
油抜き | 必須(熱湯法が推奨) | 原則不要(汚れがひどい場合は洗浄を兼ねて行う) |
洗浄 | 油抜き後に行う | 必須(カビ取り剤などを使用する場合も) |
乾燥 | 最重要(数週間~1年単位) | 重要(洗浄後、数日~1週間程度) |
サンディング | 乾燥後に#240程度から | 状態により#180など粗い番手から始める |
このように、素材のコンディションを見極めることが、適切な塗装方法への第一歩となります。
「この竹は、今どんな状態だろう?」
そう問いかけながら、竹の表面を優しく撫で、その声に耳を傾ける。
そんな心持ちで素材と向き合えば、自ずとやるべきことが見えてくるはずです。
竹に合う塗料の選び方|ニス、オイルステイン、絵の具の特徴
もし、竹の表面の艶出しや保護を目的とするならば、アサヒペンの塗料が定番のようです。
下準備が完璧に整ったなら、いよいよ作品の表情を決める塗料選びの段階です。
塗料と一括りに言っても、その種類は実に多種多様。
それぞれに特性があり、目指す仕上がりによって最適な選択は異なります。
ここでは代表的な塗料であるニス、オイルステイン、そして意外な選択肢としての絵の具について、それぞれの長所と短所を、私の経験を交えながら解説していきましょう。
1. ニス(ワニス)
ニスは、竹の表面に透明な硬い膜(塗膜)を形成するタイプの塗料です。
最大のメリットは、耐久性と保護性能の高さ。
塗膜が物理的なバリアとなるため、傷や汚れ、湿気から竹をしっかりと守ってくれます。
特に水回りで使うものや、日常的に手が触れる竹製品には最適と言えるでしょう。
光沢のある「グロス(艶あり)」から、落ち着いた風合いの「マット(艶消し)」まで、艶の度合いを選べるのも魅力です。
ただし、デメリットもあります。
それは、いかにも「塗りました」という人工的な質感になりやすいこと。
また、塗膜が厚すぎると、将来的にひび割れたり、黄ばんだり(黄変)することもあります。
ニスを塗る際は、一度に厚く塗ろうとせず、薄く何度も塗り重ねることが、美しく仕上げる秘訣です。
ニスは以下のような水性ツヤダシニスであれば、安価ですし失敗しても落としやすいです。
2. オイルステイン
オイルステインは、ニスとは対照的に、塗膜を作らずに竹の繊維に染み込んで着色するタイプの塗料です。
「ステイン」とは「染み」や「汚れ」を意味する言葉で、その名の通り、竹が持つ自然な木目や質感を一切殺すことなく、色だけを深く浸透させることができます。
最大の魅力は、自然で深みのある仕上がり。
まるで長年使い込まれたかのような、アンティークな風合いを出すのに非常に適しています。
特に、後述する竹を飴色にする方法では、このオイルステインが主役となります。
一方で、保護性能はニスに劣ります。
オイルが主成分なのである程度の撥水性はありますが、硬い塗膜はないため、傷や汚れには比較的弱いと言わざるを得ません。
耐久性を高めたい場合は、オイルステインで着色した上から、クリアのニスやオイルフィニッシュ用のオイルで仕上げるという合わせ技が有効です。
3. 絵の具(アクリル絵の具など)
「え、絵の具で塗装?」と驚かれるかもしれませんね。
しかし、DIYレベルで竹に色を塗る場合、アクリル絵の具は非常に優れた選択肢となり得ます。
最大の利点は、色の自由度と手軽さ。
混色によって無限の色を作り出すことができ、乾燥も速く、臭いも少ないため、室内での作業にも向いています。
耐水性のあるアクリル絵の具を選べば、乾燥後は水を弾くようになります。
ただし、塗料として開発された製品ではないため、塗膜の強度はニスなどには及びません。
細かい模様を描いたり、特定の部分だけをカラフルに着色したり、といった装飾的な使い方に向いていると言えるでしょう。
もし、絵の具で全体を塗装し、実用的な強度も持たせたいのであれば、塗装後に上からクリアニスをコーティングすることをおすすめします。
これにより、美しい発色と耐久性の両方を手に入れることができます。
ここで、読者の皆さんからよくいただく質問にお答えする形で、さらに理解を深めていきましょう。
-
食卓で使う竹のお箸や食器に塗装したいのですが、安全な塗料はありますか?
-
素晴らしい質問ですね。口に直接触れるものへの塗装は、安全性が最優先です。その場合、「食品衛生法適合」と明記された塗料を選ぶようにしてください。
一般的に、ウレタン系のニスや、自然由来のオイル(亜麻仁油、桐油、くるみ油など)を原料とした塗料に、この規格に適合した製品が多く見られます。
パッケージの表示を必ず確認し、安全性が保証された塗料を選びましょう。
また、塗装後は、塗料メーカーが指定する乾燥期間を厳守することも非常に重要です。
完全に硬化・乾燥するまでは、微量の化学物質が揮発する可能性があるためです。
安全性を第一に、正しい塗料選びと手順を心がけてください。
どの塗料を選ぶか。
それは、あなたがその竹製品に何を求め、どんな表情を与えたいのか、という問いへの答えそのものです。
それぞれの特性をよく理解し、あなたの創造性を最大限に発揮できる、最高のパートナー(塗料)を見つけてください。
塗装に必要な道具リスト|刷毛や塗装スプレーも忘れずに
最高の塗料を選んだとしても、それを塗るための道具が貧弱では、宝の持ち腐れになってしまいます。
「弘法筆を選ばず」とは言いますが、それはあくまで達人の領域。
我々が美しい仕上がりを目指すのであれば、適切な道具を揃えることは、塗料選びと同じくらい重要なのです。
ここでは、竹の塗装を成功に導くために、最低限揃えておきたい基本的な道具と、あると便利なアイテムをご紹介します。
私が工房で使っている道具の中には、何十年も手入れをしながら使っている年代物もありますが、最初はすべてホームセンターや画材店で手に入るもので十分です。
ただし、ひとつだけ。
刷毛だけは、少しだけ奮発することをおすすめします。
安い刷毛は毛が抜けやすく、せっかくの塗装面に毛が混じってしまうという、悲しい事故が頻発するからです。
【基本の道具リスト:これだけは揃えたい!】
- 刷毛(はけ): ニスやオイルステインを塗るための必須アイテム。竹のような曲面や細部を塗る場合は、山羊毛などの柔らかい毛を使った、腰のある「筋交い刷毛」がおすすめです。幅は塗装する面積に合わせて、15mm、30mm、50mmなど、数種類用意しておくと万全です。
- 塗料トレイ: 塗料を少量ずつ移して使うための容器です。缶から直接刷毛を突っ込むと、塗料の劣化を早めたり、ホコリが混入したりする原因になります。使い捨てのプラスチック製トレイや、牛乳パックを開いたものでも代用可能です。
- マスキングテープ: 塗りたくない部分を保護するためのテープです。境界線をシャープに仕上げるために欠かせません。粘着力が弱すぎず、強すぎない、塗装用のものを選びましょう。
- ウエス(布): オイルステインの拭き取りや、はみ出した塗料の拭き取り、道具の手入れなど、用途は無限大です。着古したTシャツなど、吸水性の良い綿素材のものが最適です。
- 手袋: 手の汚れを防ぐだけでなく、手の油分が塗装面に付着するのを防ぐ意味でも重要です。薄手のニトリルゴム製の手袋が、作業しやすくておすすめです。
- 保護メガネ・マスク: 塗料の飛沫や、サンディングの粉塵から目や呼吸器を守ります。特に塗装スプレーを使う場合は必須です。
竹に塗装をしたい場合、道具を一つ一つ揃えるのが面倒な場合、以下のようなセット商品がお勧めです。
プラモデル用途ですが、竹製品の繊細なペイントにも適しており、実際使い心地は良いです。
【あると便利な応用アイテム】
- 塗装スプレー(エアゾール缶): 刷毛ムラができにくく、均一で滑らかな塗膜を手軽に作れるのが最大の魅力です。広範囲を一度に塗装する場合や、複雑な形状のものを塗る場合に非常に便利。ただし、周囲への塗料の飛散に細心の注意が必要です。屋外での使用を原則とし、周囲を養生シートなどでしっかりと保護しましょう。
- 電動サンダー: 広い面積のサンディングを効率的に行うことができます。特にIKEAの家具のような、平滑な面を持つ竹製品の下地処理で威力を発揮します。
- コテ刷毛: 平らで広い面を、手早くムラなく塗るのに適した道具です。
- スポンジ(メラミンスポンジなど): 液体状のステインなどを、叩くようにして塗る(タンポ塗り)ことで、独特の風合いを出すことができます。
ここで、道具選びに関する私の苦い経験を一つ。
若い頃、どうしても欲しかった高級な天然オイル塗料を手に入れたことがありました。
一本5,000円以上もする代物です。
しかし、当時の私はお金がなく、刷毛をケチって100円ショップで売っているようなペラペラの刷毛で塗ってしまったのです。
案の定、塗装中に刷毛の毛が次々と抜け落ち、美しいはずの木肌が「毛だらけ」になってしまいました。
ピンセットで一本一本取り除こうとしましたが、時すでに遅し。
塗料は乾き始め、表面は無残にもデコボコになってしまいました。
結局、全て剥がして一からやり直す羽目に。
高価な塗料も、時間も、すべて無駄にしてしまったのです。
この経験から、私は「塗料の価格の一割は、刷毛に投資しろ」と弟子たちに教えています。
良い道具は、あなたを裏切りません。
それどころか、あなたの技術を何倍にも引き上げ、最高の仕上がりへと導いてくれる、頼もしい相棒となってくれるでしょう。
目的別!竹の塗装方法と仕上げのテクニック
さあ、長い下準備の旅も、いよいよ最終目的地が見えてきました。
完璧に準備された竹と、選び抜かれた塗料と道具。
役者はすべて揃いました。
ここからは、あなたが思い描く理想の作品を現実のものとするための、具体的な塗装方法と仕上げのテクニックについて解説していきます。
塗装は、単に色を付けるだけの作業ではありません。
それは、竹という素材に新たな命を吹き込み、あなたの感性を表現する、創造的なプロセスです。
たとえば、竹が本来持つ清々しい質感を活かし、耐久性だけを高めたい場合。
あるいは、まるで何十年も使い込まれたような、深い飴色の艶を与えたい場合。
さらには、IKEAのモダンな竹製品に、自分だけのオリジナルな彩りを加えたい場合。
それぞれの目的によって、アプローチは全く異なります。
この後の章では、まず全ての基本となる「ムラなく綺麗に塗るための手順」を徹底的に解説します。
刷毛の動かし方一つ、塗装スプレーの距離感一つで、仕上がりは劇的に変わるのです。
次に、多くの人が憧れる「竹を飴色にする方法」の秘密を紐解きます。
これはオイルステインとウエスを使った、少し高度ながらも、非常にやりがいのあるテクニックです。
時の流れだけが生み出すことのできる、あの美しい風合いを、あなたの手で再現してみませんか。
そして、応用編として「IKEAの竹製品をおしゃれにリメイクする塗装アイデア」もご紹介します。
既製品に一手間加えることで、世界に一つだけの特別な家具や小物へと生まれ変わらせる喜びは、DIYの醍醐味と言えるでしょう。
さらに、塗装が終わった後の「メンテナンス」についても触れていきます。
美しい状態を長く保つためには、そして、さらに深い味わいを育てていくためには、どのような手入れが必要なのか。
「油塗るべきか、塗らざるべきか」といった素朴な疑問にも、私の経験からお答えします。
塗装は、塗って終わり、ではありません。
そこから、あなたと竹製品との長い付き合いが始まるのです。
これからご紹介する一つ一つのテクニックは、いわば私の30年間の集大成です。
どうぞ、焦らず、楽しみながら、あなたの作品作りに取り組んでみてください。
実践!目的別の竹の塗装テクニック
竹に色を塗る
塗装方法
竹を飴色にする方法
IKEA
油塗る
下準備が終わったら、いよいよ竹に色を塗る実践編です。塗装スプレーを使った基本の塗装方法から、オイルを油塗ることで実現する憧れの竹を飴色にする方法、IKEAの製品をおしゃれに変身させるテクニックまで4つの目的別に紹介。塗装後のメンテナンス方法も分かります。
- 基本の塗装手順|ムラなく綺麗に竹に色を塗る方法
- 憧れの風合いに!竹を飴色にする方法とオイルの塗り方
- IKEAの竹製品をおしゃれにリメイクする塗装アイデア
- 塗装後のメンテナンス|長持ちさせるために油塗るべき?
- 竹のベストな塗装方法まとめ
基本の塗装手順|ムラなく綺麗に竹に色を塗る方法
どんなに独創的な仕上げを目指すにしても、その土台となるのは、ムラなく均一に塗るという基本的な技術です。
この基本を疎かにしては、決して美しい結果は得られません。
ここでは、刷毛を使った塗装と、塗装スプレーを使った塗装、それぞれの基本的な手順と、プロが実践しているちょっとしたコツを伝授します。
【刷毛を使った基本の塗装手順】
1. 環境を整える
まず、作業場所を整えましょう。
ホコリが舞わないように床を水拭きし、換気を十分に行います。
塗装する竹の下には、新聞紙や養生シートを敷き、汚れても良いように準備します。
理想的な作業環境は、気温20℃前後、湿度65%以下。
気温が低すぎると塗料の乾燥が遅れ、高すぎると表面だけが急激に乾いてしまい、シワ(リフティング)の原因になります。
湿度が高い日は、塗膜が白く濁る「カブリ」という現象が起きやすいので、塗装は避けるのが賢明です。
2. 塗料を準備する
塗料の缶を開ける前に、缶を逆さにしてよく振り、中の顔料を均一に混ぜ合わせます。
開けた後も、きれいな棒などで缶の底からしっかりと攪拌してください。
そして、使う分だけを塗料トレイに移します。
この時、ケチらずに少し多めに移すのがコツ。
少ない塗料を刷毛で何度もこすりつけるように塗ると、ムラの原因になります。
3. 刷毛に塗料を含ませる
刷毛の毛先の3分の1から半分程度まで、ゆっくりと塗料に浸します。
そして、トレイの縁で刷毛をしごき、余分な塗料を落とします。
刷毛から塗料が滴り落ちない、ギリギリの量がベストです。
4. 塗装する
いよいよ塗装です。
基本は「木目に沿って、一方向に」。
竹の繊維に沿って、刷毛をスーッと滑らせるように、一定のスピードで塗っていきます。
往復させたり、何度も同じ場所をこすったりするのは厳禁。
刷毛跡が残り、汚い仕上がりになってしまいます。
塗りにくい隅や角から先に塗り始め、最後に広い面を塗ると、効率的かつ綺麗に仕上がります。
5. 乾燥と重ね塗り
一度目の塗装(下塗り)が終わったら、塗料のパッケージに記載されている乾燥時間を厳守して、完全に乾燥させます。
手で触れてもベタつかない「指触乾燥」ではなく、完全に硬化するまで待つことが重要です。
乾燥後、表面にザラつきを感じる場合は、#400以上の細かい紙やすりで、ごく軽く表面を撫でるように研磨します(これを「中研ぎ」と言います)。
研磨後、削りカスをきれいに拭き取ってから、二度目の塗装(上塗り)を行います。
塗料は、一度に厚く塗るのではなく、「薄く、何度も」塗り重ねるのが鉄則です。
この手間を惜しまないことで、強靭で美しい塗膜が形成されるのです。
通常、ニスなどの塗膜を形成する塗料は、2~3回の重ね塗りが推奨されます。
【塗装スプレーを使った基本の塗装手順】
塗装スプレーは手軽ですが、実は奥が深い道具です。
コツを掴めば、プロ並みの滑らかな仕上がりを実現できます。
- 準備: 屋外の風のない日を選び、周囲に塗料が飛散しないよう、ダンボールで囲いを作るなど、広範囲を養生します。
- 攪拌: スプレー缶の中には攪拌球(かくはんきゅう)が入っています。カラカラという音がしてから、さらに30秒から1分ほど、しつこいくらいによく振りましょう。
- 試し吹き: 本番の塗装に入る前に、必ず不要な板やダンボールに試し吹きをします。色の出方や、噴射のパターンを確認してください。
- 塗装: 塗装面から15cm~25cmほど離した位置から、平行にスプレーを動かします。ここでのポイントは、「塗り始めと塗り終わりを、対象物の外側で行う」こと。対象物の上で噴射を開始したり、止めたりすると、その部分だけ塗料が厚くかかり、液だれの大きな原因になります。
シューッ、シューッと、リズミカルに、少しずつ塗り重ねていくイメージです。
一度で色を決めようとせず、刷毛塗り同様、乾燥時間を挟んで何度も薄く塗り重ねるのが成功の秘訣です。
基本は、地味で根気のいる作業の繰り返しです。
しかし、この基本に忠実であることこそが、美しい作品への最も確実な近道なのです。
憧れの風合いに!竹を飴色にする方法とオイルの塗り方
新品の竹製品が持つ、青々とした、あるいは白木のような清々しい表情も魅力的ですが、一方で、長年大切に使い込まれた古民具のような、深い艶と温かみのある「飴色」の竹に、心惹かれる方も多いのではないでしょうか。
この、まるで時間の経過だけが生み出すことのできるような美しい風合いを、塗装によって再現する。
それが、ここでご紹介する「竹を飴色にする方法」です。
このテクニックの主役は、前にも登場したオイルステイン。
竹の内部に染み込んで着色するオイルステインの特性を最大限に活かし、自然な経年変化を演出していきます。
【竹を飴色にするためのステップ】
1. 塗料の選定:オイルステインの色選び
まず、オイルステインの色を選びます。
「飴色」を表現するには、「オーク」「チーク」「マホガニー」といった、少し赤みがかった茶色系の色がおすすめです。
いきなり濃い色を選ぶのではなく、まずは薄めの色から試し、好みの濃さになるまで塗り重ねて調整するのが失敗しないコツです。
異なる色を混ぜて、自分だけのオリジナルカラーを作るのも面白いでしょう。
2. 塗装:塗り込みと拭き取りのタイミング
下準備を終えた竹に、オイルステインを塗っていきます。
刷毛で塗っても良いですが、この塗装方法では「ウエス(布)」を使うのがおすすめです。
ウエスにオイルステインを少量染み込ませ、円を描くように、あるいは木目に沿って、竹の表面にすり込んでいきます。
この時、塗料をケチらず、少し多めに塗るのがポイントです。
そして、ここからが最も重要な工程、「拭き取り」です。
オイルステインを塗ってから、5分~10分ほど放置し、塗料が少し染み込んだところで、きれいな乾いたウエスを使って、表面に残った余分なオイルを完全に拭き取ります。
ゴシゴシと、少し力を入れて拭き取るイメージです。
この拭き取りが甘いと、いつまで経っても表面がベタベタし、ホコリが付着して汚い仕上がりになってしまいます。
私がこの技法を覚えたての頃、またしても失敗をしました。
拭き取りの重要性を理解しておらず、「たくさん塗った方が色が濃くなって良いだろう」と、オイルを塗ったまま長時間放置してしまったのです。
結果、表面で乾き始めたオイルが粘土のようになり、拭き取ろうにも拭き取れず、ベタベタのムラムラという最悪の状態に。
結局、塗料剥がし剤を使って全て剥がし、一からやり直すという苦い経験をしました。
オイルステインは「染み込ませて、余分は拭き取る」。
この原則を、絶対に忘れないでください。
3. 重ね塗り:深みを出す
一度目の塗装と拭き取りが終わったら、丸一日以上、十分に乾燥させます。
そして、色の濃さを見ながら、二度、三度と「塗り込み→拭き取り→乾燥」の工程を繰り返します。
回数を重ねるごとに、色は徐々に深みを増し、艶も出てきます。
節の部分など、色の染み込みやすい場所とそうでない場所で、自然な濃淡が生まれるのも、この技法の魅力です。
まるで、本当に長い年月が、その竹に美しい陰影を刻んだかのように。
4. 仕上げ:保護と艶出し
好みの色合いになったら、最後の仕上げです。
オイルステインだけでも素朴で良い風合いですが、耐久性を高め、さらに深い艶を出したい場合は、上から保護コーティングを施します。
選択肢としては、以下のようなものがあります。
- オイルフィニッシュ用のオイル(亜麻仁油、桐油など): オイルステインとの相性が最も良く、自然な艶としっとりとした手触りが得られます。ウエスですり込み、余分を拭き取るという、オイルステインと同様の手順で仕上げます。
- 蜜蝋ワックス: 天然のワックスで、優しい艶と撥水性を与えます。こちらもウエスですり込むように塗ります。
- 艶消しのクリアニス: 塗膜を作ってしっかりと保護したいが、ピカピカの光沢は避けたい、という場合に最適です。
この竹を飴色にする方法は、少し手間と時間はかかります。
しかし、その分、完成した時の喜びは格別です。
あなたの手で、竹に偽りのない「時間」をまとわせてみてはいかがでしょうか。
IKEAの竹製品をおしゃれにリメイクする塗装アイデア
手頃な価格で、シンプルかつ機能的なデザインが魅力のIKEA。
その中でも、竹を素材とした家具や小物は、温かみのある雰囲気で人気がありますね。
例えば、まな板やサービングトレイの「オストビット」、収納ボックスの「ドラーガン」など、皆さんのご家庭にも一つはあるのではないでしょうか。
これらのIKEA製品は、そのままでも十分に素敵ですが、ほんの少し塗装を加えるだけで、驚くほど個性的でおしゃれなアイテムに生まれ変わらせることができます。
ただし、IKEAの竹製品を塗装する際には、一つだけ注意すべき点があります。
それは、多くの場合、表面にすでに何らかのクリア塗装(ラッカー塗装など)が施されているということです。
この塗装の上から、いきなり別の塗料を塗っても、油抜きをしていない竹と同じで、塗料が弾かれてうまく定着しません。
ですから、IKEA製品のリメイクは、まずこの既存の塗膜を剥がすことから始まります。
【IKEA竹製品リメイクの基本ステップ】
1. 表面の塗膜を剥がす(サンディング)
既存の塗膜を剥がすには、サンディングが最も確実な方法です。
IKEA製品は平滑な面が多いので、電動サンダーがあると作業が格段に捗ります。
まずは#180~#240くらいの中目の紙やすりで、表面のクリア層を完全に削り落とします。
表面が白く曇り、元の竹の生地が見えてくればOKです。
全面を削り終えたら、#320~#400の細目のやすりで表面を滑らかに整え、塗装の準備は完了です。
2. 塗装アイデア:個性を出すテクニック
下地処理さえしっかり行えば、あとはあなたの自由な発想で塗装を楽しむだけです。
いくつか、おすすめのリメイクアイデアをご紹介しましょう。
- 部分的なカラーリング: 全てを塗装するのではなく、一部分だけをアクセントカラーで塗る方法です。例えば、収納ボックスの縁だけを好きな色の絵の具(アクリル絵の具がおすすめ)で塗ったり、スツールの脚の先だけを別の色にしたり。マスキングテープを駆使すれば、境界線をシャープに仕上げることができます。
- ステンシルで模様を入れる: 市販のステンシルシートを使えば、誰でも簡単にプロのような模様や文字を入れることができます。塗料は、にじみにくいアクリル絵の具をスポンジで叩くようにして乗せるのがコツ。塗装スプレーを使っても、シャープな仕上がりになります。
- アンティーク風エイジング塗装: 前の章で紹介した「竹を飴色にする方法」は、IKEA製品にももちろん応用可能です。オイルステインで着色した後、角の部分などを少しやすりで削って塗装を剥がし、使い古したような風合い(エイジング加工)を出すのも素敵です。
- 黒板塗料やアイアンペイントの活用: 最近では、塗るだけで黒板になる塗料や、金属のような質感になるアイアンペイントなど、ユニークな塗料がたくさんあります。カッティングボードの一部を黒板塗料で塗り、チョークでメッセージを書けるようにするなど、アイデア次第で用途が広がります。
私の工房では、時々、地域の子供たちを招いてDIY教室を開くことがあります。
その際、IKEAの安価な竹の小物入れを教材に使うことが多いのですが、子供たちの自由な発想にはいつも驚かされます。
ある子は、7色の絵の具を使って虹色のグラデーションに仕上げ、またある子は、自分の好きなキャラクターを細い筆で見事に描き上げました。
既製品というキャンバスに、自分だけの色を乗せていく。
それは、新品の素材から物を作るのとはまた違った、特別な喜びと達成感を与えてくれます。
あなたの家で眠っているIKEAの竹製品も、次の休日、新たな姿に生まれ変わらせてみてはいかがでしょうか。
塗装後のメンテナンス|長持ちさせるために油塗るべき?
丹精込めて仕上げた竹製品。
塗装が完了した瞬間は、大きな達成感に包まれることでしょう。
しかし、物語はここで終わりではありません。
むしろ、ここからが、その竹製品とあなたの長い付き合いの始まりなのです。
美しい状態をできるだけ長く保ち、使い込むほどに味わいを増していくためには、適切なメンテナンスが欠かせません。
ここでは、塗装後の日常的なお手入れの方法と、「油塗るべきか?」という、多くの人が抱く疑問についてお答えします。
まず、日常のお手入れの基本は、「乾拭き」です。
ホコリがついたら、柔らかい布で優しく拭き取ってください。
汚れがついてしまった場合は、固く絞った濡れ雑巾で水拭きし、その後すぐに乾いた布で水分を完全に拭き取ることが重要です。
特に、ニスやウレタン塗装などで塗膜を作っている場合、表面に長時間水分が残っていると、塗膜が白化したり、劣化を早めたりする原因になります。
さて、本題の「油塗るべきか?」という問いですが、これは「施した塗装の種類による」というのが私の答えです。
塗装の種類 | メンテナンス(油) | 理由 |
ニス・ウレタン塗装 | 原則不要 | 表面が硬い塗膜で完全に覆われているため、油は浸透しません。逆に、表面に油を塗ると、油分がホコリを吸着し、ベタつきや汚れの原因になります。 |
オイルステインのみ | 推奨 | 保護膜がない状態なので、定期的に油分を補給することで、乾燥による割れを防ぎ、美しい艶を保つことができます。半年に一度程度が目安です。 |
オイルフィニッシュ | 推奨 | オイルステイン同様、油分が時間と共に乾燥・揮発していくため、定期的な補給が必要です。表面が少しカサついてきたな、と感じたらメンテナンスのサインです。 |
蜜蝋ワックス仕上げ | 推奨 | ワックスも徐々に落ちていくため、撥水性が弱まってきたと感じたら、再度ワックスを塗り込むことで効果が復活します。 |
オイルを塗る場合は、どのようなオイルを使えば良いのでしょうか。
ホームセンターなどで手に入る「木工用メンテナンスオイル」が最も手軽です。
亜麻仁油や桐油、くるみ油といった、乾性の植物油も適しています。
注意点として、オリーブオイルやサラダ油のような不乾性油(乾きにくい油)は、いつまでもベタベタして酸化し、悪臭の原因になるため、絶対に使用しないでください。
オイルを塗る際は、ウエスに少量のオイルを取り、薄く均一にすり込み、その後、必ずきれいな乾いたウエスで余分な油を完全に拭き取ります。
この「拭き取り」の重要性は、オイルステインの塗装時と全く同じです。
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塗装が部分的に剥げてきてしまいました。どう補修すればいいですか?
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良い質問ですね。長く使っていれば、どうしても傷がついたり、塗装が剥げたりすることはあります。部分的な補修は、以下の手順で行うのがおすすめです。
- 下地処理: 剥げた部分の周囲を、#400程度の細かい紙やすりで軽くサンディングし、段差を滑らかにします。削りカスはきれいに拭き取ってください。
- 部分塗装: 補修箇所に、綿棒や細い筆を使って、元と同じ塗料を薄く塗ります。この時、周囲の健常な塗膜にあまりはみ出さないように、慎重に作業します。
- 乾燥と重ね塗り: 乾燥させた後、必要であればもう一度薄く塗り重ねます。
- ぼかし: 完全に乾燥した後、補修箇所と周囲の境界線を、#1500以上の極細目の紙やすりや、コンパウンド(研磨剤)で優しく磨き、馴染ませます。
こうすることで、補修跡が目立ちにくくなります。慌てず、丁寧に行うことが成功の秘訣です。
愛情を込めて手入れをすれば、竹製品はそれに応え、10年、20年と、あなたの暮らしに寄り添ってくれます。
そして、日々のメンテナンスで重ねられた手の跡や、細かな傷の一つ一つが、その製品だけのユニークな歴史となり、何物にも代えがたい味わいへと昇華していくのです。
竹のベストな塗装方法まとめ
さて、長い道のりでしたが、竹の塗装に関する私の知識と経験の旅も、いよいよ終着点です。
油抜きの重要性から始まり、サンディングのコツ、素材ごとの下準備の違い、そして目的に合わせた塗料の選び方と具体的な塗装方法まで、本当に多くのことをお話ししてきました。
ここまで読んでくださったあなたは、もう「竹の塗装は難しい」と尻込みしていた、以前のあなたではないはずです。
竹の塗装で最も大切なことは、決して「上手に塗ること」だけではありません。
それは、竹という素材の声を聴き、その特性を理解し、敬意を払うことです。
なぜ油抜きが必要なのか。
なぜ繊維の目に沿って磨くのか。
なぜ乾燥に時間をかけるのか。
その一つ一つの工程に、先人たちが積み重ねてきた知恵と、自然素材と向き合うための理由が込められています。
私が若い頃に犯した失敗の数々は、結局のところ、この「素材への敬意」が欠けていたことに起因します。
焦りや慢心から、基本を疎かにしてしまったのです。
この記事でお伝えした塗装方法は、決して唯一の正解ではありません。
あくまで、私が30年以上の経験の中で見つけ出した、一つの確かな道筋です。
ぜひ、このガイドをあなたの羅針盤として、まずは一歩を踏み出してみてください。
最初は小さな竹の小物からで構いません。
IKEAのまな板をリメイクするのも良いでしょう。
きっと、想像していたよりもずっと楽しく、奥深い世界が広がっていることに気づくはずです。
そして、いつかあなた自身の失敗や成功を通じて、「自分だけの竹の塗装方法」を見つけ出してください。
塗料の種類を変えてみたり、磨き方を変えてみたり、あるいは全く新しい表現方法を編み出したり。
その試行錯誤のプロセスこそが、DIYの最大の喜びであり、あなたの作品に、誰にも真似できない魂を宿らせるのです。
あなたの手によって新たな命を吹き込まれた竹製品が、これからのあなたの暮らしを、より豊かに、より温かく彩ってくれることを、心から願っています。
さあ、道具を手に取り、創造の扉を開けましょう。
竹は、静かにその時を待っていますよ。