(更新日: 2025年10月3日)

幻想的な光で癒される竹灯籠、自分でも作ってみたいと思いませんか?美しい竹細工の中でも人気の竹灯籠ですが、制作過程で一つの重要な工程があり、それが竹の油抜きです。
この油抜きを省略すると、せっかく作った作品が台無しになるかもしれません。
この記事では、竹の油抜きしないとどうなるのか、その具体的なリスクを詳しく解説します。
なぜ油抜きが必要なのか、その理由を知ればきっと納得できるはずです。
カビの発生や虫食い、さらには乾燥によるひび割れなど、後悔する前に知っておきたいことばかりです。
でも、油抜きって難しそう、特別な道具が必要なんじゃないかと心配になりますよね…ご安心ください。
この記事を読めば、家庭で誰でも簡単にできる油抜きの方法が分かります。
本格的な仕上がりを目指せるバーナーやヒートガンを使った乾式はもちろん、もっと手軽な方法も紹介します。
例えば、火を使わない安全な方法として、キッチンにある重曹やお湯を使ったやり方があるんです。
さらに、道具いらずで最も簡単な天日干しのコツまで、あなたの環境に合わせて選べるテクニックが満載です。
この記事が、あなたの竹灯籠作りを成功へと導くガイドブックになりますように!さあ、正しい知識を身につけて、世界に一つだけの素敵な竹灯籠作りを始めましょう。
記事の要約とポイント
- 知らないと後悔!「竹の油抜きしないとどうなる?」カビ・虫・割れの3大リスクを解説
- なぜ油抜きは必要?美しい竹灯籠を長持ちさせる科学的な理由がしっかりわかる
- 家庭でできるプロの技!バーナーを使った乾式など、簡単な油抜き方法を手順ごとに紹介
- 火を使わないから初心者でも安心!重曹やお湯、天日干しで安全に油抜きする方法も網羅
竹灯籠で竹の油抜きしないとどうなる?起こりうる3つの悲劇
庭の片隅で、あるいは部屋の窓辺で、幻想的な光を放つ竹灯籠。その手作りの温もりに憧れて、ご自身で挑戦しようと考えている方も多いのではないでしょうか。しかし、ただ竹に穴を開けるだけでは、美しい灯籠は生まれません。実は、多くの人が見過ごしがちな、しかし決定的に重要な工程があるのです。それは「竹の油抜き」という作業。かく言う私も、この道に入って30年になりますが、駆け出しの頃、この油抜きを甘く見て手痛い失敗を経験しました。あれは忘れもしない、蒸し暑い夏の夜のことでした。丹精込めて作ったはずの竹灯籠が、一夜にして見るも無惨な姿に変わり果てていたのです。その原因、そしてあなたが同じ轍を踏まないために知っておくべきこと、それがこの記事のテーマです。もしあなたが「竹の油抜きしないとどうなる?」と少しでも疑問に思っているなら、ぜひこの先を読み進めてください。後悔先に立たず、という言葉が、これほど身に染みる作業もそうはありませんから。
竹の油抜きをするなら、イワタニのトーチバーナーがお勧めです。
イワタニのトーチバーナーの便利なところはその汎用製です!ホームセンターは勿論、コンビニや地方のローカル個人商店でも沢山の取り扱いがあります。
「油抜きしないとどうなる?」3つの末路
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竹灯籠作りで竹の油抜きをしないと、1.カビやシミによる変色、2.虫害による劣化、3.乾燥によるひび割れという3つの悲劇が起こります。なぜなら竹内部の油分や水分が劣化の原因となるからです。ここでは油抜きしないとどうなるかを具体的に解説し、作品を長持ちさせる重要性をお伝えします。
- 1. 見た目が台無し!カビやシミによる変色
- 2. 虫が湧いてボロボロに!耐久性が著しく低下
- 3. 作品が割れる原因に!乾燥によるひび割れ・変形
- そもそもなぜ竹の油抜きが必要なのか?
1. 見た目が台無し!カビやシミによる変色
「まあ、多少のカビは自然素材の味だよね」なんて声を時々耳にしますが、とんでもない。それは大きな間違いです。特に、日本の湿度の高い環境では、カビは味ではなく、作品の寿命を確実に縮める侵略者だと言えるでしょう。
私がまだ25歳だった頃、地元の工芸展に初めて自分の作品として竹灯籠を数点出品する機会に恵まれました。若さゆえの自信と、ほんの少しの慢心があったのかもしれません。納期までまだ間があるからと、油抜きを少し簡略化した竹を数本、工房の隅に置いておいたのです。季節は、ちょうど梅雨入りしたばかりの6月。工房の中は、じっとりとした空気が澱んでいました。そして搬入日の2日前、最後の仕上げをしようと竹を手に取った瞬間、私は言葉を失いました。美しい緑青色だったはずの竹の表面に、まるで墨をぶちまけたかのように、黒い斑点がびっしりと広がっていたのです。黒カビ(Aspergillus niger)でした。慌てて布でこすっても、表面の菌は取れますが、竹の繊維の奥深くに根を張ったシミは、もうどうにもなりません。結局、その日は徹夜で予備の竹を加工し直し、なんとか納期には間に合わせましたが、あの時の血の気が引くような感覚と、自分の未熟さへの悔しさは今でも鮮明に思い出せます。
なぜ、こんなことが起きてしまうのか。それは、油抜きをしていない竹が、カビにとって最高の栄養源と環境を提供してしまうからです。
竹の内部には、私たちが思う以上に多くの糖分やデンプンが含まれています。これらは竹が成長するためのエネルギー源なのですが、伐採された後では、カビを育てるためのご馳走に変わってしまいます。特に、日本の梅雨時から夏にかけては、カビが最も活発になる季節。一般的に、カビは気温が20℃~30℃、湿度が70%以上になると爆発的に繁殖を開始すると言われています。2023年の気象庁のデータによれば、東京の7月の平均湿度は77%でした。まさに、カビの天国というわけです。
油抜きという工程は、熱を加えることでこれらのデンプン質を変性させ、カビが利用できない状態に変える、あるいは水分と一緒に外へ排出させるための重要な作業なのです。この一手間を惜しむことで、あなたの竹灯籠は、光を灯す前に、不気味な斑点に覆われてしまうかもしれません。そうなってからでは、もう遅いのです。
竹は場合によっては、購入したものを油抜きしているかもしれませんね。
その辺に生えているものならいざしらず…折角購入した竹を高温でボロボロにしてしまったらショックですよね。
しかし、ヒーティングガンを使えばその心配は無用です!
2. 虫が湧いてボロボロに!耐久性が著しく低下
カビが「静かなる侵略者」だとしたら、次にお話しする虫は、より直接的で破壊的な「捕食者」です。油抜きをしていない竹は、特定の虫たちにとって、この上なく魅力的な産卵場所であり、食料庫となります。気が付いた時には、竹の内部がスカスカになり、表面には無数の小さな穴が…。そんな悲劇に見舞われたくなければ、ぜひこの話を聞いてください。
以前、私が技術指導で訪れた、とある町の小さな工房での出来事です。そこの主人は非常に手先が器用な方でしたが、昔ながらのやり方に固執するあまり、竹材の管理が少々甘いところがありました。工房の裏手に積まれた伐採したての青竹の山。一見すると素晴らしい材料の山ですが、私にはそれが時限爆弾のように見えました。案の定、春先になって主人が慌てた様子で電話をかけてきたのです。「竹から、白い粉が噴き出してきて止まらないんです!」と。
現場に駆けつけてみると、そこはもう悲惨な状況でした。積まれた竹の表面には、まるで粉砂糖をまぶしたかのように、きめ細かい木屑がびっしりと付着しています。そしてよく見ると、竹の表面に直径1~2mmほどの小さな穴が無数に開いているのです。犯人は、ヒラタキクイムシでした。この虫の幼虫は、竹に含まれるデンプン質を大好物としており、内部で竹を食い荒らしながら成長します。そして成虫になると、あの小さな穴を開けて外へ飛び出していくのです。私たちが目にする白い粉は、幼虫が食べた竹のフンと食べかす。つまり、粉が出ている時点で、内部はすでに迷路のように食い荒らされ、ボロボロになっている証拠なのです。耳を澄ませば、竹の中から幼虫が木を削る「キーッ、キーッ」という微かな音が聞こえてくることさえあります。
ヒラタキクイムシだけではありません。タケトラカミキリのような大型の虫も、竹にとっては天敵です。彼らはもっと大胆に、内部をトンネルのように食い進み、竹の物理的な強度を根本から破壊してしまいます。竹灯籠に美しい彫刻を施したとしても、内部が虫に食われていたら、わずかな衝撃で簡単にパキッと折れてしまうでしょう。
ここで、油抜きをしていない竹がどれだけ危険か、比較表で見てみましょう。
項目 | 油抜きしない竹 | 油抜きした竹 |
見た目 | カビ、シミが発生しやすい。虫食いの穴が開く可能性がある。 | 美しい青竹の色が抜け、淡い白色から飴色に変化する。 |
耐久性 | 虫害に遭いやすく、環境によっては1~2年で強度が著しく低下する。 | 虫が寄り付かず、適切に管理すれば数年~十年以上持つ。 |
手触り | 伐採時期によってはベタつきが残ることがある。 | さらりとして滑らか。使い込むほどに艶が出る。 |
安全性 | 虫のフン(フラス)によるアレルギーのリスク。 | 清潔で安心して室内に置ける。 |
この表を見れば一目瞭然でしょう。油抜きは、単なる見た目の問題ではなく、あなたの作品の寿命、そして安全性に直結する、絶対に省略してはならない工程なのです。
3. 作品が割れる原因に!乾燥によるひび割れ・変形
竹は専用の油性保護剤を使う事で驚くほど艶が出て長持ちします。
カビや虫という生物的な要因の次に待ち受けているのが、物理的な破壊、つまり「割れ」や「変形」です。これもまた、油抜きを怠った竹に起こりやすい悲劇の一つ。特に、空調の効いた現代の住環境は、竹にとって非常に過酷な状況を生み出します。
これも私の苦い失敗談なのですが、ある商業施設から冬のイベント用に、と大型の竹灯籠オブジェの制作依頼を受けたことがありました。納期が非常にタイトで、私は伐採して間もない、まだ水分をたっぷり含んだ瑞々しい竹を使わざるを得ませんでした。もちろん、最低限の火入れ(油抜き)はしましたが、今思えば全く不十分なものでした。なんとか形にして納品し、設置されたオブジェを見て安堵したのも束の間。その翌日の朝、クライアントから怒りの電話がかかってきたのです。「竹が、見事に割れてしまっているんだが!」
現場に飛んでいくと、メインの太い竹に、上から下まで一直線に亀裂が「ピシッ」と入っていました。原因は、施設の強力なエアコンによる急激な乾燥でした。夜通し吹き付ける乾いた温風が、竹から急激に水分を奪い、その収縮に耐えきれなくなったのです。幸い、すぐに代替品を用意して事なきを得ましたが、あの時の冷や汗と、プロとしての未熟さを突き付けられた屈辱は、今でも忘れられません。
なぜ、竹はこれほど簡単に割れてしまうのでしょうか。それを理解するには、竹の含水率と収縮率について知る必要があります。
伐採したばかりの、いわゆる「青竹」の含水率(材料に含まれる水分の重量割合)は、季節にもよりますが、おおよそ60%から、時には80%以上にもなります。つまり、竹の重さの半分以上が水分なのです。この竹が乾燥していくと、最終的には周囲の湿度と釣り合う「平衡含水率」(日本ではおよそ15%前後)まで水分が抜けていきます。問題は、この水分が抜ける過程で、竹が縮むこと。しかも、縮み方が方向によって全く違うのです。
竹の収縮方向 | 平均的な収縮率 |
繊維方向(長さ) | 0.1 ~ 0.3% |
半径方向(厚み) | 3 ~ 5% |
接線方向(円周) | 5 ~ 10% |
ご覧の通り、長さ方向にはほとんど縮みませんが、円周方向には最大で10%も縮むことがあります。例えば、直径10cm(100mm)の孟宗竹があったとしましょう。この竹が乾燥して、接線方向に仮に8%収縮したと計算してみます。
計算式: 直径 × 収縮率 = 収縮量
100mm × 0.08 = 8mm
なんと、円周の長さがこれだけ縮もうとするのです。しかし、竹の硬い外皮や内部の構造が、この収縮に抵抗しようとします。この内部で発生する巨大な応力(ストレス)に耐えきれなくなった時、竹は「ピシッ!」という音を立てて割れてしまうのです。
油抜き、特にバーナーなどを使う乾式の油抜きは、この水分を強制的に抜き、組織を安定させる効果があります。竹の繊維を熱で締め上げ、急激な乾燥にも耐えうる強い構造を作り出す。これは、いわば竹の「焼き入れ」のような工程なのです。このひと手間が、あなたの作品を無残な割れから守る、何よりの保険となるでしょう。
そもそもなぜ竹の油抜きが必要なのか?
ここまで、カビ、虫、割れという3つの悲劇についてお話ししてきました。これらはすべて、油抜きをしないことで起こる現象です。では、そもそも論として、なぜ竹の油抜きはこれほどまでに重要なのでしょうか。その根本的な理由を理解すれば、この作業が単なる面倒な一手間ではなく、素材への敬意と、作品を長持ちさせるための知恵であることが腑に落ちるはずです。
竹は植物ですから、生きている間は、地中から水分や養分を絶えず吸い上げています。その内部は、水分、そして糖やデンプンといった栄養分で満たされています。これらは竹が成長し、しなやかさを保つためには不可欠なものです。しかし、伐採され、「材料」となった瞬間から、これらの内部成分は一転して、劣化を促進する弱点となってしまうのです。
考えてみてください。水分はカビの温床となり、糖やデンプンはカビや虫の格好のエサとなります。そして、多すぎる水分は、乾燥の過程で割れや変形を引き起こす元凶となる。つまり、油抜きとは、竹を「生きていた植物」から「長持ちする工芸材料」へと生まれ変わらせるための、いわば「下処理」であり「儀式」なのです。
ここで、よく受ける質問にお答えする形で、さらに理解を深めていきましょう。
-
「油抜き」と言いますが、本当に油を抜いているのですか?
-
非常に良い質問ですね。実のところ、「油」という言葉のイメージとは少し異なります。もちろん、竹には微量の油分も含まれており、それを表面に浮き出させて拭き取る作業も含まれます。しかし、油抜きの本質的な目的は、先ほどからお話ししている「余分な水分」と「糖質やデンプン質」を除去、または変質させることにあります。バーナーで炙ると表面にじわっと緑色の液体が汗のように浮き出てきますが、あれは油分だけでなく、水分やアク、葉緑素などが混じり合ったものです。ですから、専門家の間では「汗をかかせる」なんて表現をしたりもします。もしかしたら「養分抜き」や「アク抜き」と呼んだ方が、作業内容としてはより正確かもしれません。
-
伐採する時期によって、油抜きの必要性は変わりますか?
-
変わります。そして、これは非常に重要なポイントです。竹細工に最も適した竹の伐採時期は、竹が水を吸い上げる活動を休止する秋から冬(具体的には9月下旬から翌年の1月頃)とされています。この時期の竹は、内部の水分やデンプン量が一年で最も少なく、虫も活動していないため、油抜き後の処理がしやすく、良質な材料となります。逆に、筍が生えてくる春から夏にかけて伐採した竹は、水分と栄養分をパンパンに含んでいるため、油抜きをより念入りに行わないと、後々ほぼ確実に問題が発生します。もしご自身で竹を伐採する機会があれば、ぜひこの時期を狙ってください。材料の質が全く違いますよ。
ところで、竹を竹林から切り出そうとしたときに、わざわざ手のこを使って手動でやっていませんか?
竹の切断ならレシプロソーが最もお勧めです!電動なのでとにかく早く竹を切る事が出来ますし、竹であれば木の切断のようにチェーンソーは不要です。
竹の油抜きは、単に表面をきれいにする作業ではありません。竹という素材の性質を根本から理解し、その弱点を克服し、長所を最大限に引き出すための、先人たちが長い年月をかけて編み出した科学的な知恵なのです。この工程を経ることで、竹は初めて、時を超えて愛される作品になるためのスタートラインに立つことができると言えるでしょう。
竹の油抜きしないとどうなる?を防ぐ竹灯籠の簡単・安全な方法
さて、ここまで油抜きの重要性について、少々脅かすような形でお話ししてきましたが、ここからは希望の持てる実践編です。「プロじゃないと難しいんじゃないか」「火を使うのは怖い」そう思っている方もご安心ください。家庭でも安全かつ簡単に行える方法は、ちゃんと存在します。
重要なのは、ご自身の環境や、作りたい作品の規模、かけられる時間などを考慮して、最適な方法を選ぶことです。ここでは、大きく分けて3つの系統の方法をご紹介します。それぞれのメリット・デメリットをまとめた比較表も参考に、あなたにぴったりの油抜き方法を見つけてください。
方法 | メリット | デメリット | おすすめの人 |
乾式 (バーナー/ヒートガン) | ・短時間で完了する<br>・独特の艶が出て仕上がりが非常に美しい<br>・矯め直し(曲がりを直す作業)も同時にできる | ・火を使うため、火災や火傷のリスクがある<br>・煙と特有の臭いが出る<br>・均一に仕上げるには技術と経験が必要 | ・本格的な竹灯籠作りに挑戦したい人<br>・屋外など、安全な作業スペースを確保できる人 |
湿式 (重曹/お湯) | ・火を使わない(コンロは使う)ので安全性が高い<br>・特別な技術が不要で、初心者でも簡単<br>・集合住宅など、煙や臭いが出せない環境向き | ・大きな鍋など、竹を煮込める容器が必要<br>・長い竹や大量の竹の処理には不向き<br>・処理後の乾燥に時間がかかる | ・安全第一で作業したい初心者の方<br>・お子さんと一緒に竹細工を楽しみたい家庭<br>・小さな作品を作る人 |
自然乾燥 (天日干し) | ・最も簡単で、道具もコストもほとんどかからない<br>・自然の力でじっくりと成分が抜ける | ・数ヶ月単位の非常に長い時間がかかる<br>・天候に左右され、広い保管場所が必要<br>・色むらが出やすい | ・時間に縛られず、気長に待てる人<br>・竹を保管しておく広いスペースがある人<br>・究極にシンプルな方法を試したい人 |
いかがでしょうか。どの方法にも一長一短がありますね。次章からは、これら3つの方法について、私の経験も交えながら、より具体的な手順とコツを詳しく解説していきます。あなたの竹灯籠作りが、ここから具体的に動き出しますよ。
こちらの会社では、竹の油抜きを業務レベルで行っています。
家庭でできる!竹の油抜き完全ガイド
家庭
簡単
バーナー
火を使わない
重曹
竹の油抜きは家庭でも簡単に行えます。本格的な乾式ならバーナーやヒートガン、火を使わない安全な方法なら重曹やお湯、時間をかけるなら天日干しがおすすめです。それぞれのメリットや手順を解説し、あなたの環境に合った最適な方法で美しい竹灯籠を完成させましょう。
- 乾式:本格的な仕上がり!バーナーやヒートガンを使う方法
- 湿式:火を使わないから安全!重曹やお湯を使う方法
- 自然乾燥:最も簡単!時間をかけた天日干しのコツ
- 竹灯籠で竹の油抜きしないとどうなる?まとめ
乾式:本格的な仕上がり!バーナーやヒートガンを使う方法
さて、まずご紹介するのは、プロの現場でも最も一般的に行われている「乾式」の油抜きです。カセットボンベ式のバーナーや、高温の熱風を出すヒートガンを使って、竹を直接炙る方法。この方法は、なんといっても仕上がりの美しさと作業の速さが魅力です。正しく行えば、竹の表面に独特の深い艶が生まれ、まるで高級な工芸品のような風格を漂わせることができます。
私がこの技術を初めて教わったのは、師匠の工房に入って間もない頃でした。見よう見まねでバーナーを手に取り、竹を炙ってみるものの、すぐに一部を焦がしてしまい、黒いススだらけにしてしまいました。「馬鹿者!炎で撫でるようにやるんだ。竹と対話しろ!」と怒鳴られたものです。師匠がやると、バーナーの青い炎が竹の表面を滑るように動いたかと思うと、じわーっと緑色の汗が玉のように浮き出てきて、それを布で拭うと、そこだけが一皮むけたように淡い、美しい色に変わるのです。まるで魔法を見ているようでした。焦がすか、美しい艶を出すか。それは本当に紙一重。炎の当て方、動かすスピード、竹との距離、その全てが完璧に調和した時にだけ、最高の仕上がりが得られるのです。
とはいえ、コツさえ掴めば家庭でも十分に可能です。以下の手順と注意点をしっかり守って挑戦してみてください。
【乾式油抜きの具体的な手順】
- 準備を万全に: まず、最も重要なのが場所の確保です。必ず屋外の、周りに燃えやすいものがない、風通しの良い場所で行ってください。コンクリートや土の上が理想的です。水を入れたバケツや消火器を必ず近くに用意しましょう。服装は、燃えにくい綿素材の長袖長ズボン、そして軍手は必須です。
- 竹を清掃する: 伐採した竹の表面には、泥や汚れが付着しています。濡らした雑巾で綺麗に拭き取っておきましょう。このひと手間で、仕上がりのムラを防ぐことができます。
- バーナーで炙る: カセットバーナーの炎を、強すぎない中火(炎の先端が青く安定している状態)に調整します。竹の節と節の間を一つの区間として、その区間全体を均一に温めるイメージで、バーナーを常に動かしながら炙っていきます。竹をゆっくりと回転させながら、同じ場所に炎が当たり続けないようにするのが最大のコツです。
- 汗をかかせる: しばらく炙っていると、竹の表面が熱せられ、内部の油分と水分がじわーっと緑色の液体となって浮き出てきます。これが「汗をかいた」状態です。この汗が区間全体にまんべんなく浮き出てくるのを目指してください。
- 素早く拭き取る: 汗が浮き出てきたら、すかさず乾いた綺麗な布(ウエス)で力強く拭き取ります。熱いうちに拭くのがポイントです。拭き取ると、竹の表面の薄皮(葉緑素)も一緒に剥がれ、青々としていた竹の色が淡い黄白色に変わるはずです。この色の変化を確認しながら、次の区間へと作業を進めていきます。
- ヒートガンを使う場合: 「どうしても火を使うのは怖い」という方には、ヒートガンがおすすめです。これはドライヤーの強力版のような道具で、400℃~600℃の熱風を出します。バーナーほどのパワーはありませんが、火を使わない分、安全性は格段に上がります。炙る要領はバーナーと同じですが、より時間をかけてじっくりと温める必要があります。
この乾式油抜きは、竹の反りや曲がりを修正する「矯め直し(ためなおし)」という作業も同時に行えるのが利点です。竹が熱で柔らかくなっているうちに、矯め木という道具を使って曲がりを直すことができます。少し上級者向けのテクニックですが、これができれば作れる作品の幅がぐっと広がりますよ。最初は短い竹で練習し、焦がさないように炎をコントロールする感覚を掴むことから始めてみてください。
湿式:火を使わないから安全!重曹やお湯を使う方法
「バーナーなんて家にないし、火事も怖い」「マンションのベランダじゃ、とてもじゃないけど乾式は無理…」そんな方にこそ試していただきたいのが、この「湿式」の油抜きです。大きな鍋とコンロさえあれば、家庭のキッチンで安全に行えるのが最大のメリット。煙や強い臭いも出ないので、ご近所に気兼ねすることなく作業ができます。
この方法を私が本格的に取り入れるようになったのは、都心のカルチャーセンターで竹細工教室の講師を頼まれたのがきっかけでした。もちろん、教室でバーナーを使うわけにはいきません。そこで、参加者である主婦の方々が、家に帰ってからも一人で安全に実践できる方法はないかと考え、試行錯誤の末にたどり着いたのが、料理でもお馴染みの「重曹」を使うやり方だったのです。参加者の方々からは「これなら私にもできる!」「理科の実験みたいで楽しい」と大変好評でした。
湿式は、竹を煮沸することで内部の油分やアクを抜き取る方法です。時間はかかりますが、特別な技術は必要ありません。
【重曹を使った湿式油抜きの具体的な手順】
- 道具を用意する: まず、加工したい竹がすっぽり入る大きさの鍋が必要です。パスタを茹でるような寸胴鍋や、大きな中華鍋などが良いでしょう。もし竹が長くて鍋に入らない場合は、半分に切るか、入るサイズの作品に限定する必要があります。そして、主役の重曹。食用の安価なもので十分です。
- 重曹水を作る: 鍋に水を入れ、竹を投入します。そこに重曹を加えます。濃度に厳密な決まりはありませんが、私のおすすめは水1リットルに対して重曹を大さじ2~3杯(約30~45g)程度です。この濃度なら、竹への負担も少なく、効率的にアクを抜くことができます。
- 煮込む: 鍋を火にかけ、沸騰させます。沸騰したら、火を弱火にして、コトコトと煮込み続けます。時間は竹の太さや状態にもよりますが、最低でも1時間、できれば2時間ほど煮込むと良いでしょう。しばらくすると、お湯が黄色っぽく濁り、アクが浮き上がってくるのが分かります。これが、竹の内部から不要な成分が出てきている証拠です。
- 洗浄と乾燥: 規定の時間が経過したら火を止め、火傷に十分注意しながら竹を取り出します。表面がぬるぬるしていることがあるので、タワシなどを使って流水で綺麗に洗い流してください。洗浄後は、風通しの良い日陰で、完全に乾燥させます。立てかけておくのが理想的です。表面が乾いていても内部には水分が残っているので、最低でも1週間以上は干しておきましょう。
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なぜ重曹を入れると効果があるのですか?苛性ソーダではダメですか?
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良い点に気づかれましたね。重曹(炭酸水素ナトリウム)は弱アルカリ性です。この性質が、竹の内部にあるデンプンやタンパク質を分解し、水に溶け出しやすくする働きを持っています。昔ながらの山菜のアク抜きと同じ原理ですね。プロの現場では、より強力なアルカリ性を持つ苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)を使うこともあります。こちらは短時間で強力に油分を抜けますが、劇物であり、取り扱いに専門知識と厳重な装備が必要です。皮膚に触れると火傷しますし、環境への負荷も大きいため、家庭で使うのは絶対にやめてください。その点、重曹は安全で手軽、かつ十分な効果が得られる、まさに家庭の竹細工の救世主と言えるでしょう。お湯だけで煮込むよりも、格段に効果が高まりますよ。
この湿式は、乾式のような美しい艶は出ませんが、竹本来の素朴な風合いを生かした、ナチュラルな仕上がりになります。何よりも安全性が高いので、お子さんと一緒に竹を切るところから始めて、この湿式油抜きを体験してみるのも、素晴らしい食育ならぬ「工育」になるのではないでしょうか。
自然乾燥:最も簡単!時間をかけた天日干しのコツ
最後にご紹介するのは、道具も火も薬品も一切使わない、最も原始的で、最も簡単な方法、「自然乾燥」です。私の祖父がやっていたのが、まさにこの方法でした。祖父は職人というよりは、農作業の合間にザルやカゴを編む、昔ながらの生活者でした。彼は冬になると裏山で竹を切り出し、それを家の軒下に数ヶ月間、ただ立てかけておくだけ。春になり、竹の色が青から白っぽく抜けた頃、おもむろにその一本を手に取り、黙々と農具を作り始めるのです。子供だった私には、それがとてもゆっくりとした、自然の摂理に従った美しい営みに見えました。
この方法は、太陽の光(紫外線)と風の力を借りて、じっくりと時間をかけて竹の水分と養分を抜いていくものです。人工的な熱を加えないため、竹へのストレスが最も少なく、非常に丈夫でしなやかな材料に仕上がると言われています。ただし、最大の欠点は、とにかく時間がかかること。最低でも3ヶ月、理想を言えば半年から一年は見ておく必要があります。今すぐ竹灯籠を作りたい、という方には向きませんが、「来年の夏に向けて、最高の材料を育ててみよう」というような、気長な楽しみ方ができる方には、ぜひ挑戦していただきたい方法です。
成功の秘訣は、いくつかあります。
【自然乾燥を成功させる3つのコツ】
- 伐採時期を厳守する: この方法においては、竹を伐採する時期が他のどの方法よりも重要になります。必ず、竹の成長が止まり、水分やデンプンの含有量が最も少なくなる10月下旬から1月頃までに伐採してください。この鉄則を破って夏に切った竹を天日干しにすると、乾燥する前にカビが生えたり、虫に食われたりする確率が格段に上がります。
- 保管場所にこだわる: 「天日干し」という名前ですが、実は真夏の直射日光にガンガン当てるのはNGです。急激な乾燥は、割れの原因になります。理想的なのは、「直射日光は当たらないが、明るくて風通しの良い場所」です。家の北側の軒下などが最適でしょう。地面に直接置くと、湿気を吸って腐り始める原因になるので、コンクリートブロックなどで下駄を履かせ、必ず立てかけて保管してください。雨には当てないように注意が必要です。
- じっくりと待つ勇気を持つ: あとは、ひたすら待つだけです。最初の1ヶ月ほどで、鮮やかだった緑色は徐々に黄色っぽく変化していきます。そして3ヶ月も経つと、すっかり水分が抜けて白っぽい色になります。竹同士をコンコンと叩き合わせてみて、軽やかで乾いた音がすれば、乾燥が完了した合図です。この待っている時間も、作品作りの一部。季節の移ろいと共に、竹が材料として成熟していく様子を観察するのも、また一興ですよ。
この方法は、まさにスローライフ的アプローチと言えるでしょう。せわしない現代社会だからこそ、あえて自然のリズムに身を委ねてみる。そんな贅沢な時間の使い方も、手作りの醍醐味の一つではないでしょうか。時間をかけて乾燥させた竹は、あなたの想いに応えるように、きっと素晴らしい作品の材料となってくれるはずです。
竹灯籠で竹の油抜きしないとどうなる?まとめ
ここまで、長い道のりでしたが、お付き合いいただきありがとうございました。竹の油抜きをしないとどうなるか、その恐ろしい末路から、家庭でできる具体的な対策方法まで、私の30年間の経験を総動員してお話ししてきました。
もう一度、大切なことを振り返りましょう。竹の油抜きは、単なる見た目を良くするための化粧ではありません。カビやシミによる変色を防ぎ、ヒラタキクイムシなどの害虫から作品を守り、そして乾燥による無残な割れや変形を回避するために、絶対に不可欠な工程です。それは、伐採された竹を、時を超えて愛される工芸材料へと昇華させるための、いわば「魂を込める儀式」なのです。
ご紹介した方法は、本格的な仕上がりを目指せるバーナーを使った乾式、火を使わない安全な重曹を使った湿式、そして自然のリズムに身を任せる天日干しと、三者三様でした。あなたの環境、時間、そして竹細工への想いに合わせて、最適な方法を選んでみてください。どの道を選んでも、その一手間が、あなたの竹灯籠をただの「モノ」ではなく、かけがえのない「作品」へと変えてくれるでしょう。
さあ、この記事を読み終えたあなたは、もう初心者ではありません。竹という素晴らしい自然素材と、正しく向き合うための知識を手に入れました。恐れることは何もありません。ぜひ、道具を手に取ってみてください。そして、あなた自身の手で、世界に一つだけの、温かい光を灯す竹灯籠を生み出してみませんか。その最初の一歩が、この「油抜き」です。あなたの挑戦が、素晴らしい作品として実を結ぶことを、心から応援しています。